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スタジアムと認知と経済(1)〜サッカーはファンを不幸にするか

ここで再びサセックス大学の研究を見てみると、この研究の目的が理解しやすくなると思います。つまり、「喜びより痛みが増すにもかかわらずチームの応援を続けることは、経済学的にみれば非合理的だ」というのは、「喜びより痛みが増すにもかかわらずチームの応援を続けるサッカーファンの多くが「幸せだと感じている」という事実は、行動経済学的にみれば着目すべき結果だ」ということなのです。

実は、行動経済学において、利益や損失と幸福度の関連性は早くから研究されています。例えば、「1万円の臨時収入(利益)」と「1万円の予定外の出費(損失)」があったとすると、利益が感情に与える影響よりも、損失が感情に与える影響の方が2倍大きいとされています。

このように、「利益」「損失」の大きさは、概ね2倍となる関係を保った、緩やかなS字の曲線を描くとされています。

サセックス大学の研究における「サッカーファンが応援するチームの勝利により受ける幸福度の上昇(3.9ポイント)」と、「敗戦により受ける幸福度の下降(7.8ポイント)」も、やはり2倍です。もしかすると、行動経済学の調査としては、この調査結果はかなり高い精度で想定通りの結果になったのかもしれません。

スタジアムの「行動経済学」

では、人間の消費行動や経済活動を研究する「行動経済学」が、サッカー観戦について研究する事にはどのような意義があるのでしょうか。
この視点をもとに、サセックス大学の研究結果について、「合理的経済人」を元に想定される仮説との差異をいくつか考えてみます。

  • もともと、「勝利の喜び」と「敗戦の落胆」は合理的に考えれば同じ大きさになるはずだが、実際は「敗戦の落胆」が2倍の大きさになる
  • 「勝利の喜び」よりも「敗戦の落胆」の累積が大きいのだから、人間はいずれ観戦をやめるはずだが、実際はファンはチームを応援し続ける
  • ファンは喜びよりも落胆を多く累積しているはずなのに、実際は多くのファンが「幸せだ」と言っている

このように、サッカーファンがチームを応援し続けるのは、必ずしも「チームの勝利によって得られる喜びが、合理的に見て総合的にプラスだから」という理由ではなさそうだと考えられます。
サッカーファンの「チームを応援し続ける」という判断には、「チームが好き」という愛情、愛着などの「感情」による影響が大きいと考えられます。「経済的合理性」とは真逆の「愛」というのが、サッカーファンが応援を続ける一因であり、「幸せ」と感じる一因なのではないかと考えられます。

サッカーファンの行動(チケットの購入、来場、グッズの購入など)について、行動経済学の観点から研究が進んだり、ここまで明らかにされてきた行動経済学の理論を応用することは、クラブのマーケティングや利益拡大に大きな可能性があるのではないかと考えています。

そこで次回は、行動経済学の研究結果や理論を、スタジアムに持ち込む試みについて考えて見たいと思います。